2021年8月29日日曜日

転倒リスクを避けるためにレジスタンストレーニングを

決められた距離をどのくらいの時間で歩けるかを測るテストは、高齢者の歩行能力をはかる手段として用いられています。



歩行スピードを測っているわけですが、歩行スピードが落ちると、転倒のリスクも高くなります。



この、歩行スピードを適切に維持するために有効な運動がレジスタンストレーニングといわれています。



レジスタンストレーニングとは、筋肉に抵抗をかける運動を繰り返し行うトレーニングです。いわゆる筋トレです。



積極的なレジスタンストレーニングが、高齢者が適切な歩行スピードを獲得するのに最も効果的な方法であったと、複数の研究を分析した結果の報告もあります※。



レジスタンストレーニングには、自重やゴムベルト、ダンベルなどが負荷として用いられますが、自重で行えるものには、スクワットや踵あげ、椅子からの起立着席運動などがあります。



日々の生活の中で、転倒のリスクを感じることがある、あるいはすでに転倒をしてしまったことがある、という方もいらっしゃるかと思います。



そういう方は特に、レジスタンストレーニングを生活の中に取り入れて、筋力の維持向上をはかられることをおすすめします。



「What type, or combination of exercise can improve preferred gait speed in older adults? A meta-analysis」 van Abbema R, de Greef M, Craje C, Krijnen W, Hobbelen H, van der Schans C BMC Geriatrics 2015 Jul 1;15(72):Epub

2021年8月22日日曜日

変形性膝関節症のリハビリは、ダイエットで効果増

変形性膝関節症のリハビリには、運動療法として大腿四頭筋、臀部の筋肉の訓練などがあります。



膝関節や骨盤帯の安定を目的としていますが、リハビリの効果をさらにあげるには、同時に体重を減らすことが大事なようです。



肥満傾向のある高齢者で変形性膝関節症を抱える人に対して、運動療法とダイエットを分けて実施した場合と、並行して実施した場合とで比較した研究※があります。



それによると、ダイエットと運動療法を並行して実施したほうが、膝の痛みの軽減や、決められた時間内での歩行距離の延長など、良い結果が出たと報告しています。



体重減少により膝関節への負担が軽くなったことが原因として考えられます。



さて、ダイエットをするには、健康状態に留意してカロリー制限することと、有酸素運動が必要になってくるわけですが、運動は、膝の痛みを悪化させないよう、適切な種目、負荷で実施する必要があります。



膝が痛くならない範囲での速歩き、浮力により膝への負荷を軽くした水中での歩行などが勧められますが、膝への負担を軽くした状態で有酸素運動ができるマシーンもあります。(当クリニック併設のジムにも設置しています)



変形性膝関節症を抱える方のリハビリ、運動のご参考になれば幸いです。



※「Exercise and dietary weight loss in overweight and obese older adults with knee osteoarthritis: the arthritis, diet, and activity promotion trial」 Messier SP, Loeser RF, Miller GD, Morgan TM, Rejeski WJ, Sevick MA, Ettinger WH Jr, Pahor M, Williamson JD Arthritis and Rheumatism 2004 May;50(5):1501-1510

2021年8月16日月曜日

メタボリックシンドロームと運動、睡眠への影響について

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満に脂質代謝異常、高血圧、高血糖のうち2つ以上当てはまる状態のことです。



そのままにしておくと、動脈硬化などのリスクが高くなってしまいます。



メタボリックシンドロームの改善には運動がすすめられており、1週間に10メッツ・時(10エクササイズ)以上の有酸素運動が推奨されています。



有酸素運動は酸素を取り込みながら行う運動で、主に体内の糖質、脂肪を燃焼させるものです。



有酸素運動で手軽にできるのは「速歩き」があり、そのほか水泳、自転車エルゴメーターなどがあげられます。



単位に使われている用語を説明しますと、「メッツ(METS)」は、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するか活動の強度を示すものです。



「メッツ・時」は、その強度の運動に時間をかけたもので「エクササイズ」という単位で表されます。



(厚生労働省 「e-ヘルスネット」より) 



1エクササイズは速歩きでは15分に相当し、ランニング、水泳(クロール)では7~8分に相当します。



つまり、速歩きの場合、1日15分×2回=30分(2エクササイズ)を週5日実施すると、10エクササイズということになります。



(会津若松市ホームページより)



さて、生活習慣病の元凶となるメタボリックシンドロームですが、睡眠にも影響があるとの報告※があります。



なかでも血圧の高さと睡眠障害の関連が指摘されているようです。



メタボリックシンドロームの兆候があるという方はもちろん、同時に睡眠にも何らかの問題を抱えているという方は、ぜひ有酸素運動を実践してみてください。



※「Sleep quality and the metabolic syndrome: the role of sleep duration and lifestyle」 Arthur Eumann Mesas 1, Pilar Guallar-Castillon, Esther Lopez-Garcia, Luz Maria Leon-Munoz, Auxiliadora Graciani, Jose Ramon Banegas, Fernando Rodriguez-Artalejo

2021年8月11日水曜日

変形性膝関節症の方のホームエクササイズに

変形性膝関節症のリハビリでは、大腿四頭筋という太ももの筋肉の筋力訓練を行ってもらう場合があります。



膝を曲げた状態から伸ばす運動ですが、膝周囲筋の筋力増強による膝関節の安定、膝周囲組織の収縮による疼痛の緩和などを目的としています。



ホームエクササイズとしても実践できるので、行っていただくようお伝えしています。



ここで、エクササイズとして加えると効果的なのが、臀部の筋肉である大殿筋、中殿筋の筋力訓練です。



複数の文献レビュー(論文を集めて精査したもの)で、臀部の筋肉の筋力訓練が、変形性膝関節症や膝関節の痛みに対して有効であると報告されています※。



骨盤帯の安定が影響するためと考えられます。



大殿筋の筋力訓練ですが、うつ伏せになって、膝を伸ばした状態で、臀部の筋肉を意識して下肢を交互にあげるという方法があります。



水泳でバタ足をしているのと同じ状態です。



意識していただきたいのは、膝を伸ばした状態で行うということです。



中殿筋の筋力訓練は、横向きに寝て、上側の下肢を膝を伸ばしたまま天井に向けて垂直にあげるという方法があります。



注意すべき点は、横になって足をあげるとき、股関節を曲げないことです。



変形性膝関節症や、膝関節の痛みを抱えている方は、大腿四頭筋の訓練に加えて実践してみてください。



※「Hip muscle strengthening for knee osteoarthritis: a systematic review of literature」 Raghava Neelapala YV, Bhagat M, Shah P Journal of Geriatric Physical Therapy 2020 Apr-Jun;43(2):89-98 「Hip and knee strengthening is more effective than knee strengthening alone for reducing pain and improving activity in individuals with patellofemoral pain: a systematic review with meta-analysis」 [with consumer summary] Nascimento LR, Teixeira-Salmela LF, Souza RB, Resende RA The Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy 2018 Jan;48(1):19-31

2021年8月4日水曜日

睡眠に有効な活動とは

適度な運動は、睡眠にも良い影響を与えるということは、経験上分かっているという方も多いと思います。



手軽にできる運動(活動)が睡眠に与える影響について検証したところ、中等度~強度の身体活動を行った場合、不眠症状が緩和し、気分の落ち込みや不安の訴えについても減少がみられたと報告※しています。



ここでいう「中等度~強度の身体活動」についてですが、運動や身体活動の強度について示す「METS(メッツ)」という単位を使うと、3~6METS(メッツ)に相当します。



「METS(メッツ)」とは、安静時を1とした時と比較して、何倍のエネルギーを消費するか活動の強度を示すものです。



生活動作、運動で、それぞれどのような活動が何メッツにあたるか一部を示すと、



<生活動作>

・3.0メッツ
普通歩行(67m/分 犬を連れて)、子供の世話、電動アシスト付き自転車、ギター演奏(立位)



・3.3メッツ
フロア拭き、掃除、電気配線の工事、身体の動きを伴うスポーツ観戦



・3.5メッツ
歩行(75~85m/分 ほどほどの速さ 散歩) 子供と遊ぶ(歩く/走る 中強度) 庭の草むしり 釣り



<運動>

・3.0メッツ
ボウリング、バレーボール、社交ダンス、ピラティス、太極拳



・3.5メッツ
自転車エルゴメーター(30~50ワット) 自重を使った軽い筋トレ、ゴルフ、カヌー



・3.8メッツ
全身を使ったテレビゲーム(スポーツ、ダンス)



となっています。(厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準 2013」より)



運動強度を基準に考えると、掃除や草むしりなどの生活動作も、睡眠に対して効果的な活動であるということを、あらためて知ることができます。



良い睡眠を得るために、一般的な運動のみにとらわれることなく、生活動作や趣味の活動でも効果が期待できるということは、知っておいてもいいことではないかと思います。



※「Increased physical activity improves sleep and mood outcomes in inactice people with insomania:a randomized controlled trial(2015)」 Iuliana Hartescu Kevin Morgan Clare D. Stevinson Windows 10 版のメールから送信

2021年7月25日日曜日

慢性の腰痛を抱える人におすすめの活動は?

腰痛を訴えてきた方に対しては、多くの場合、リハビリとして運動療法が処方されます。



その有効性、エビデンスは証明されていますが、状態がある程度改善したあとは、どのような活動を行っていけばいいのでしょうか。



この点について調べた文献レビュー(多くの論文を精査してまとめたもの)※があります。



それによると、水泳やウォーキング、サイクリングなど中等度の運動強度で行われるものは、身体の健康を維持し疼痛をコントロールするのを補う、としています。



また、テニス、乗馬、武道、体操、ゴルフ、ランニングなどのスポーツは、低負荷もしくは低い競争心のレベルで行うことができるとも指摘しています。



以上をまとめて、中等度の運動強度で規則的な身体活動は、慢性腰痛患者のフィットネスを改善するのを補い、急性の疼痛のリスクを増やすことはないとの見解を示しています。



以前はスポーツをよく行っていたが、腰痛発症後、それが慢性となっている状態ではとくに何もしていない、という方は多いと思います。



悪化するのが怖いというnのが一番の理由ではないでしょうか。



しかし、報告のように、慢性腰痛となっても過度に再発を怖がらずに、できる活動を選んで実践していくことが、健康の維持、痛みの管理の点からも大事なようです。



※「Which physical activities and sports can be recommended to chronic low back pain patients after rehabilitation?」 Ribaud A, Tavares I, Viollet E, Julia M, Herisson C, Dupeyron A Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 2013 Oct;56(7-8):576-594 systematic review

2021年7月19日月曜日

慢性痛、疲れ対策にも筋力トレーニングはおすすめ

長年の生活習慣や、職場での仕事内容、作業環境により、身体に慢性の痛みを抱えている方は多いと思います。



そのような方に対しては生活環境、労働環境の改善がまず第一に検討されるべきかと思います。



また、日々の体のケアとしては、ストレッチやマッサージなどで対応している場合が多いかと思います。



ここで、ケアのもう一つの手段としてあげたいのが筋力トレーニングです。



筋力トレーニングには、作業動作が楽になる、筋肉量が増えることで骨格を支え姿勢悪化を防ぐ、基礎代謝をあげ血行をよくするといった効果があります。



それに加え、慢性痛が軽減する、疲れにくくなるといった効果も期待できます。<



作業系の労働を行い、慢性痛のある人に筋力トレーニングを10週間実施したところ、上肢の慢性の痛みが軽減し、疲労耐性が向上したとの報告※もあります。



もちろん痛みを抱えながらのトレーニングですので、負荷や姿勢など気を付けなければならない点はあると思います。



> ただ、痛みのみにとらわれて通常のケアだけの方向に向かうのではなく、筋力トレーニングという積極的なケアも取り入れたほうが、よりよい身体のコンディションの獲得につながるということが言えるかと思います。



※「Strength training improves fatigue resistance and self-rated health in workers with chronic pain: a randomized controlled trial」 Sundstrup E, Jakobsen MD, Brandt M, Jay K, Aagaard P, Andersen LL BioMed Research International 2016;(4137918):Epub

握力はからだの情報を映しだすモニター

握力は全身の筋力の状態を反映するものとして、デイケアなどの高齢者施設では、利用者の方の健康管理の指標に日常的に使われています。 握力については、そのほかにも、身体の機能や状態との関連を示す報告がなされています。 握力の低下とともに、心血管リスク、...